人が人をしばるって、ほんとに難しいものなんだよ。。。

・ぼくがエジプトのピラミッドの前に立ったとき。
 つまり、そのときというのは、
 ジョン・レノンが撃たれたというニュースを
 そこで聞いたのだから、1980年の12月のことだった。
 ピラミッドは、どうやってつくったのかが、
 じぶんの目で見てわかったような気がした。

 それまでのぼくの知識では、ピラミッドというのは、
 権力者がおおぜいの奴隷たちを苦しめながら
 つくらせたものだった。
 炎天下の砂漠のなかで、
 渇きや飢えで倒れる者を見殺しにしながら
 権力を見せつけるための建造物として、それは完成した。
 そんな描き方をした映画も、見ていた。
 
 しかし、ピラミッドの前に立って、
 それを見上げていると、そんな見方はちがうとわかる。
 当時の王に対しても、役人にも、庶民にも、
 ピラミッドという存在そのものに対しても、
 失礼な見方であったなぁと思った。
 権力とやらを振りまわして無理やりにつくれるものと、
 そんなふうにはつくれないものがある。
 それは、ピラミッドの前に立てば、誰にもわかる。
 
・あのときから、ぼくは
 「力」というものは、使うのにも維持するのにも、
 とても難しいものなのだと考えるようになった。
 暴力や脅迫のように無理な力を使ってできることは、
 ほんとうに少ししかない。
 「逆の例もあるじゃないか」という反対意見もわかる。
 でも、それは「防弾ガラスの高級車」で、
 周囲に注意を払いながら動いているような「強さ」だ。
  
 例外があるのは知っているけれど、あえて、そう言う。
 人は人を、力で屈服させ続けることはできないし、
 力で人を押さえつけた人間は、幸福にはなりえない。
 人が人をしばるって、ほんとに難しいものなんだよ。
 毎年12月には、よくピラミッドのことを思い出す。

(2012年12月25日/ほぼ日刊イトイ新聞/今日のダーリンより)