「たいしたことない」芸風。。。

 口が悪いとか、毒舌とかいうことを、
 ぼくは「芸風」だと思っている。
 そういう口ぶりや表現が、
 ウケるからそうしているのだと理解している。
 メディアを前にしたときに、毒舌で売っている人は、
 たいてい人前では穏やかだったり大人しかったりする。
 テレビカメラがこっちを見ているとき、
 あるいは文章として商品をつくっていることになると、
 激しく人を傷つけるようなふるまいをするのだ。
 これは、そういう「芸」なんだろうと思うしかない。
 
 そうでないとすれば、他人がいやがることを言ったり、
 人を傷つけてよろこぶ悪い人だということになる。
 他人に毒のあることばを吐いているのは、
 誰が考えたって悪いことだろう?
 
 口の悪い人ほど、心がきれいだという迷信がある。
 まぁ、汚いラーメン屋ほどうまいというのと同じだ。
 口の悪いのは、正直だからだという説もあるけれど、
 人が一般に、そんなに悪いことばかり考えていると、
 本気で思っているのだろうか。
 
 むろん、口当たりのいいことばかり言うのも、
 これはこれで「芸風」だと思っている。
 そういうことばを聞きたい人に向けて、
 いかにもにこやかに善きことばかり語るのは、
 「善いこと言い」という「芸」ではないだろうか。
 それが、ほんとうであるような人も、
 伝記や物語のなかにはいるだろうけれど、
 実際にいると信じすぎないほうがいいのではないか。
 身近にいる人なら、ほんとうのことを知っていると思う。
 
 さて、ぼく自身はどうなのかと、言われそうだ。
 ぼくは、「めんどくさがり」だと思う。
 ぼくに「芸」があるとすれば、
 あるいは「芸」をしているとすれば、
 なるべく「芸」がなくてもやっていけるように
 工夫をし続けているのではないだろうか。
 パンツ一枚程度は履かせてもらいながら、
 暑くても寒くても裸でいられるなら、それが理想だなぁ。

「たいしたことない」ことは、なかなかたいしたことだぜ。
(2013年9月7日_ほぼ日刊イトイ新聞_今日のダーリンより)